硬膜外気体注入療法と対象疾患
硬膜外気体注入療法(EGI)は、「硬膜外腔空気造影法※1」という検査と「仙骨麻酔※2」の二つを応用した治療法です。
治療の対象となる疾患(これまで治療してきた多くの患者で顕著な改善が認められた疾患)は下記の通りです。
※1…硬膜外腔空気造影法:CTやMRIが導入される以前に行われていた検査方法
※2…仙骨麻酔:120年以上前から現在も使われている麻酔方法
硬膜外気体注入療法(EGI)の治療の対象となる疾患
頭蓋骨や脊柱、膜、脳脊髄液が脳や脊髄を保護している仕組み
クモ膜下腔には脳脊髄液が入っており、外のダメージから脳や脊髄を守っています。脊柱管ではクモ膜下腔のさらに外側に、硬膜と硬膜外腔があります。
むち打ちなどの衝撃で髄液流の急激な変化が起こりえます。その際、髄液レベルでの髄液吸収異常が発生している可能性がります。
新モンロー・ケリーの法則
脳神経外科で有名な「モンロー・ケリーの法則」とは、頭蓋骨の中にある脳組織と血液、そして脳脊髄液の総量は常に一定で、異常が起こると血液・脳脊髄液の量が変化して頭蓋内圧を一定に保つという考え方です。
私たちは数々のMRI画像を観察して研究を進め、脳や脊髄で異常が起こると脊柱管の部分で脊髄硬膜にある脊髄硬膜嚢が収縮し、脊髄硬膜外腔のバトソン静脈叢が拡張して圧を一定に保つ働きがあることが分かりました。
つまり、脳に異常が起こると脳脊髄液や血液が減少して脳圧を一定に保つのと同様の働きが、脊髄でも行われていたのです。
これを「新モンロー・ケリーの法則」と呼びたいと思います。
脳脊髄液漏出症での脳・脊髄の形態変化例
脊髄の周りの構造(脊柱の断面図)
硬膜外気体注入療法の作用
硬膜外麻酔は医療現場で長く用いられており、虫垂炎(盲腸)を手術する時の麻酔や、坐骨神経痛にも用いられ、保険適用になっています。しかし、硬膜外気体注入療法は保険適用がありません。そのため、この治療は今のところ保険適用外の自費となります。
私たちは医療倫理委員会の承認を得て、慢性外傷後頭痛をはじめとした疾患への治療として硬膜外気体注入療法を行っております。
治療の方法について
硬膜外気体注入療法では、硬膜外腔に少量の気体(空気、酸素、ヘリウム)を注入します。
治療は横になった姿勢(臥位)又は座った姿勢(座位)で行います。主に仙骨裂孔から腰椎穿刺針を用いて硬膜外腔を穿刺します。腰椎穿刺針は通常の硬膜外穿刺に用いられる硬膜外針に比べて細いので、出血などのリスクは低く、痛みも格段に少なくて済みます。この方法で気体が皮下に漏れやすかったり、効果が薄い場合には、下位胸椎から下位腰椎までの高さで行います。注入量は100mlを超えない範囲で行っています。
治療パターンと概算費用
硬膜外気体注入療法
- 点滴
- 硬膜外気体注入療法
- 酸素カプセル
※保険適用外
※入院して治療する場合は別途入院費が必要です
点滴と酸素カプセル
- 点滴
- 酸素カプセル
※保険適用外
安静と点滴
- 診察と点滴
(3割負担時)※保険適用
※入院して治療する場合は別途入院費が必要です
髄液の圧が異常に高い状態が続き、髄液排除で症状が軽減する場合には、
髄液シャント術:特に脳室心房短絡術を行うことがあります。
治療に伴う危険性と合併症について
- 痛み
- 個人差はありますが、背中や肩に軽い痛みが生じます。また、少し息苦しくなる場合もあります。
- 出血
- 硬膜外には血管がたくさんあり、出血することもありますが、異常を起こすものではありません。
- 感染
- 全ての外科的治療と同じく、病原菌が入ると感染する可能性があります。
- 空 気 塞 栓
- 硬膜外腔を穿刺したとき、針先が血管に当たって出血した状態で気体を入れると血液の中に空気が入る「空気塞栓」という状態になります。出血していなければこのような事は起こらないので、出血がないことを確認して行っています。
- 麻酔
- 硬膜外生食・気体(空気または酸素)注入療法は無麻酔でも可能ですが、局所麻酔をした方が安全で痛みも軽くてすみます。
- 偶発的合併症
- 通常の生活をしていても起こる予期せぬ合併症が、治療中に起こる可能性もあるという意味で偶発的合併症を記載します。